「え、」
「というか、今、越えました。だからもう線なんて引かないでください。」
美聖は駄々を捏ねる子供のように、息吹に懇願する。
彼は、人目も憚らず、ぎゅう、と彼女を抱きしめたまま、自身の頭を息吹の頭へ擦り寄せる。
「お願いだから。俺から貴女を取らないで。」
息吹から絶対に離れまいときつく抱きしめてくる美聖に、息吹も、その隣にいたアイドルの三輪《みわ》も驚いていた。
特に三輪は憧れの顔面、柊 美聖の初対面がこれで脳が処理しきれていないようだ。
息吹は何度か自分の身体に巻き付く美聖の腕を、とんとん、と叩いてみるも、それはさらにきつく息吹を縛り付けるだけ。