美聖が通路を曲がりかけた時、斜め向かいにある自動販売機の並ぶ簡易休憩所に、その後ろ姿を見つけた。




「(息吹さんだ)」




彼女も今日は美聖と同じ局で音楽番組の収録予定だ。例えcoc9tailのアカウントでその告知がなかったとしても、美聖はその後ろ姿ですぐに息吹だと気づくだろう。




「息吹ちゃんもう覚えたの?すご」



男の声がした。美聖の場所からは壁が死角になって見えない。


だが、その死角から伸びてきた筋肉質な腕が、隣の息吹の細い肩に触れた。




「は?」



美聖の足がぴたりと止まる。こめかみのあたりが、ぴくりと不自然に動く。