ドキドキの晩餐会は、意外にも緩やかに進んでいた。
テーブルマナーには欠片の自信もなかったけれど、手先は案外動くもので今のところ粗相の回数もゼロ。
きっとロザリン兄弟のおかげだ。
リューカスさんもルザークも丁度いい塩梅で会話を繋げてくれるので、気まずくならないで済んでいる。
あれ、だけど二人はお客様なのに、むしろこっちが接待されているような扱いはどうなんだろう?
「……そういえば、この辺りにルナキュラスの花畑があるって聞いたんだ。アリアちゃんは見たことある?」
「ルナキュ、ラス……? ううん、ないよ」
私は口に入れていたデザートのレモンムースをごくりと飲み込んだ。
ルナキュラスとは、冬の時期に一週間くらいしか咲かない花のことで、別名「願いの花」と呼ばれている。
(ゲームではリデルとギルバートがお互いに贈りあってたよね)
だけど私は、実物を見たことがなかった。
この近くに花畑があるということも知らなかったし。知っていても外出ができないので見に行くのは無理だったけど。
(スチルが綺麗だったから覚えてる……)
画面越しでもその美しさに見惚れていた。
月の光に反応して短い開花を迎えるルナキュラの花は、儚くも暖かな光をまとわせ、最後の瞬間まで輝き続ける。
「花畑、キレイなんだろうなぁ」
前世のスチルを頭に思い浮かべながら、小さく呟く。
「…………」
「……? お父様、どうしたの?」
感じた視線の先には無表情のクリストファーがいる。
意思の読み取れない顔で私を見ているので、もしや口元にムースでも付けてしまっていたかと急いで確かめた。
(よかった。何も付いてない)
「そう黙って見てやるな。言いたいことがあるなら言ってやればいいだろ」
「……何の話だ?」
「まさか、無自覚だったのか、それ」
クリストファーに声をかけていたリューカスさんが、おいおいと苦笑いを浮かべている。
それを何気なしに見ていれば、近くに座るルザークがクスッと笑った。
「よかったね、アリアちゃん」
「え?」
…………なにが?