「はい。またお会いできて光栄です」
「ええと。それでね、ゼノ」

 ちょいちょいとゼノに向かって手招きする。
 首を傾げながらも、ゼノはまた一歩前に近づいた。

「この前、ごめんね」
「え?」
「倒れて迷惑かけちゃったから」

 両手を口に添えながらこっそりと言う。

 一応、私は公爵令嬢なので、一介の見習い騎士に謝るときは小声で目立たないようしなければいけない。
 室内なら話は別だけど、今は周囲にたくさん人がいるから。

「お気になさらないでください。お嬢様が回復されて、よかったです」

 何となく私の意図を理解したのか、ゼノはぱちぱちと瞬かせたあと、ふわりと笑った。

 なんというか、騎士というよりは王子様の微笑みのようで、顔が眩しい。

「ゼノは模擬戦に出るの?」
「はい。ほかの見習い騎士も数人参加させていただきます」
「そうなんだ。頑張ってね」
「ありがとうございます。アリアお嬢様に勝利をご覧いただけるよう努めます」

 軽く会話を交えたあとで、ゼノは元の場所に戻っていった。

「彼、見習い騎士の中でも段違いだね」

 横で話を聞いていたルザークが、ゼノを含めた見習い騎士がいる方向に目を向けて呟いた。

「そうなの?」
「うん、オーラが違う。きっと日頃から人一倍鍛錬を積んでいるんだろうね。将来有望だなー」
「へえ〜……」

 まるで未来ある若者に対する口調に、私は心の中で「あなたほんとに9歳……?」と疑惑の眼差しを向けた。