「楽しそうだねぇ、アリアちゃん」

 隣にいるルザークも生暖かい目を向けてくる。似たような眼差しを騎士たちからも感じて、なんだか恥ずかしくなってしまった。

 整列をかけてくれたラオを見上げて「もう大丈夫です」と合図を送る。
 ラオは口元に笑みを浮かべると、軽く頷いて正面を向いた。

「我らが主君――公爵閣下がご息女アリア・グランツフィル様並びに、ロザリン侯爵がご令弟ルザーク・ロザリン様に敬礼!」

 ラオが声を張り上げると、騎士たちは私とルザークに向けて敬礼をとる。
 思わず両手を叩きそうになったところをぐっと堪え、心の中で拍手を送った。

「アリアお嬢様」

 呑気に心の手でぱちぱちしていると、不意にラオが振り返る。

「なに?」
「皆に声をかけて頂いてもよろしいでしょうか」
「え」

 まさかの申し出に口端が引き攣りそうになった。
 どうしていいかわからずジェイドに助け舟を求めると、耳元でコソッと囁かれる。

「主君である公爵様に代わって、なにかご挨拶をお願いいたします」
「お父様、に、代わって?」
「お客人のルザーク様がいらっしゃいますからね。公爵様もそれを見越して許可されたのですよ」

 さも当然というように言われて、私はさらに困惑した。

(私が代わりって、ただの見学じゃなかったの? たしかにルザークはお客さんだけど、公爵の代わりって……!)

 それってつまり、私の言葉一つで面目を潰しかねないということなのでは。それを5歳児の私に任せるなんて。

(まあ、面目とかそこまで考えているわけじゃないかもしれないけど……)

 躊躇ってもじもじとしてしまっては格好がつかないので、表では平静を装って前に出る。
 サルヴァドールを抱きしめたままなのは、ご愛嬌ということにしてもらおう。

「……みなさん、今日はよろしくお願いします」

 大勢の人の前に立つと頭が真っ白になる。
 気の利いた言葉が何も出てこなくて、無難にそれだけしか言えなかったけれど。

 なんとか場に釣り合った笑みを作ることができた。