「騎士団もそうだけど、アリアちゃんのお父様……グランツフィル公爵は帝都でも有名だよ。何せ帝国に一人しかいないマイスターだから」

 ぼんやり世界規模ではどれほどのものなんだろう考えながら、ルザークの話に耳を傾ける。

 マジックマスターとソードマスター。どちらか一つの称号を授かるだけでも名誉なことで、マイスターであるクリストファーは帝都にいなくても常に注目されているそうだ。

「帝都かあ……いつか行ってみたいな」

 何気なく口にした言葉だけど、後ろにいるジェイドの表情が曇ったことに私は気づいていた。

(そういえば、私のお母様が嫁いだ侯爵家って、今はどうなってるんだろう)

 シナリオ通りならば、クリストファーは侯爵家の人たちを皆殺しにしたことになっている。

(あまり気にしないようにしていたけど……)

 私が生まれたその日。
 お母様が亡くなって多くの人が死んだのかと思うとゾッとしてしまう。

「アリアちゃんが帝都に来ることがあれば、いつでも案内するよ。景色の良い場所も、オススメのカフェも詳しい方だから」
「うん、楽しみにしてる。美味しいお菓子屋さん、たくさん教えてね」
「アリアちゃんはスイーツが好きなんだ。了解、任せて」

 行けるかどうかは置いておき、ルザークの申し出にこくりと頷く。
 やっぱりこの男、9歳にして女の子の扱いに長けているようだ。

「実は今回、兄上がグランツフィル公爵領に来たのは、公爵様に帝都に出向いてもらうようお願いをしに来たのも一つの理由だったんだけどね」
「え、お父様を帝都に?」
「そう。来年の春に行われるマスター試験と、魔闘祭典へ出席してほしいんだって、兄上が言っていたから」
「マスター試験、魔闘祭典……!」

 続けて聞いたことがあるイベント名に、私の瞳はぱぁっと見開いた。