「ルザーク、この兄がいなくても行けるな?」
「兄上は俺をいくつだと思っているんだよ」
やれやれと肩を竦めるルザーク。でもあなた、さっき9歳って聞いたけど。見知らぬ土地で出歩くにはまだまだ心細い年齢じゃないだろうか。
「俺は他にも話があるからな、案内してもらえ」
どうやらリューカスさんは他にも要件があるらしく、その間にルザークは騎士団見学をするそうだ。
この流れだと、私は別邸にトンボ帰りする感じだろうか。
来客なのだから仕方ないと思いつつも、このまま何もせずに戻るのはもったいない気がする。
「お父様、アリアも騎士団見学したいなぁ」
早朝挨拶でもクリストファーの訓練姿を見てみたいと言ったことがある。
その時はばっさり断られたけれど、今は状況も違うしいけるのではとダメ元で聞いてみた。
ちょっとばかしおねだりポーズも添える。この前、シェリーとは違う見張りのメイドにやったときには通じた技である。
「……ジェイド」
「かしこまりました」
クリストファーは何拍か置いて口を開き、ジェイドはというと馴れた様子で執務室の扉付近に飾られた青い水晶玉に触れた。
「ただいま騎士団の者がこちらに向かっていますので、少々お待ちください」
青い水晶から手を離したジェイドがにこやかに告げた。
(うんともすんとも言わないからダメかと思ったけど、行ってもいいんだ……!)
クリストファーから許可を得られたことが嬉しくて、にんまりと口が笑ってしまう。
そして前々から不思議な装飾だなぁと感じていた水晶玉は、通信機器のような役割があったみたい。
もしやあれは、魔力を糧に様々な用途を担う魔導具というやつじゃないの?
(リデルの唄声でも結構色々な種類の魔導具が出てきてたよね、きっとそうだ)
とはいえ会話は一切なく、水晶玉が何度か光を帯びて点滅しただけだった。
(騎士団にも同じ水晶玉があって、こっちが触ると向こうにある水晶玉がチカチカ光るのかな?)
それからほどなくして騎士団から副団長が執務室にやってくる。
使い方としては予想通りだったようだ。
これで会話もできるようになったら便利なのになと考えながら、私は部屋を出る前にクリストファーとリューカスさんに振り返った。
「いってきます、お父様、リューカスさん」
「……」
「ああ、行ってらっしゃい。うちの弟をよろしくな」
腕を組んで無言を貫くクリストファーは、前髪が軽く揺れる程度に首を動かした。そしてひらひらと片手を振るリューカスさん。
対称的な二人に見送られ、私は騎士団へ向かった。