『リデルの歌声』のクリストファーは、一章でいなくなってしまう。
 主人公であるリデル視点でクリストファーの背景を多少理解してはいたものの、すべては知らない。

 友人のリューカスさんといい、寮といい。何なら知らないことのほうが多いのだと気づかされる。

「寮って?」

 頭を傾け尋ねると、リューカスさんが教えてくれた。

「寮というのは、住むところのことだ。帝都学院で俺とクリストファーは同学年でな、学院寮の部屋も同室だったんだよ」

 リューカスさんは懐かしそうに瞳を細める。

(帝都学院……って、リデルが通うことになる学校だ! クリストファーも帝都学院出身だったんだ。あれ、でも三ヶ月だけって?)

 それについて気になっていると、リューカスさんはさらに続けた。

「まあ、クリストファーが通っていたのはたったの三ヶ月なんだけどな」
「どうして、三ヶ月?」

 帝都学院は四年制だったはず。
 飛び級や編入制度があるにしても、三ヶ月はさすがに短すぎる。

「……はっ、もしかしてお父様、退学になったの?」

 それしか思いつかなくて、つい口に出してしまった。
 予想外の指摘だったのか、クリストファーは私を見たまま一度だけ瞬きをする。

「くっ、ははは! 退学! そりゃあいいな、ルザーク!」
「あの公爵様に向かって大笑いするとか。兄貴ってほんとに怖いもの知らずだよね」

 兄の大笑いに、ルザークは呆れた目をリューカスに向けた。

「ロザリン侯……笑いすぎです。アリアお嬢様も、なぜそのような言葉をご存知なのですか」
「絵本で読んだの」
「どのような絵本で?」

 ジェイドは教育に悪いとでも言いたそうだ。

 しかし、リューカスさんのリアクションからして退学ではなかったのだろう。
 ひとしきり笑ったあと、リューカスさんは答えてくれた。

「短期間で学院を辞めはしたが、退学とは少し違う。ただ、在学の必要がなくなった。そうだろう、マイスター殿?」

 リューカスさんは首を反対方向にもたげ、クリストファーを見据える。

(マイスター!?)

 私は心の中で大声をあげた。