「あ、おい……」

 そっと、クリストファーは私の前に出た。

 まるで庇うように後ろに退かせ、頭に手を添えている。自分の脚に私が張り付いてるのにもクリストファーは許容している様子だ。

(なんかちょっと……優しい? いまの確実にこの人から距離をとってくれたよね? え、ほんとにほんとにクリストファー?)

 元々は私から縋り寄った手前、こんな感想を持ったら失礼なんだろうけど。

(一体どうしちゃったの? もしかして、昨日の似顔絵が効果てきめんだったとか!?)

 なんにせよ、クリストファーの珍しい行動に胸の奥がくすぐったくなる。
 心の中ではごちゃごちゃ言っているけど、驚きよりも単純に嬉しさが勝っていたのだ。

「……」
「……」

 クリストファーの意外な行動のあと、私はふと周りが静かになったことに気づき視線を前に向けた。

(やっぱり、びっくりしてる)

 ジェイドはもちろん、謎の男リューカスもあんぐりと表情を崩してクリストファーを凝視している。

「……?」

 ただ、クリストファーだけが周りの反応の意味に気づいていないようで、怪訝そうに二人の顔を見返していた。

 つまり今のは、クリストファーが意識せず体が勝手に動いたということなんだろう。

 それなら、あまりここで大袈裟にしないほうがいい気がする。
 無意識なのに周りが執拗に反応してしまっては、クリストファーも逆に意識してしまう。

(せっかく私を拒否しなくなってきたところなんだから)

 そう考えた私は、妙な空気を打破するため声をかける。
 
「……お父様! この人、お父様の友だち?」 
「違う」
「っおい、待て待て。聞き捨てならないぞ」

 謎の男リューカスは、我に返った様子でクリストファーのあっさりとした否定に異論を唱えた。