「安心いたしました」
文書を受け取ったマーティンが朗らかな目を向けてくる。
彼の発言にクリストファーは軽く頭を傾けた。
「アリアお嬢様と上手くいっているようで」
「上手く……」
傍から見ればそう思われているのだろうか。
クリストファーの幼少期を知る古株のマーティンだからこそ分かる変化なのかもしれない。
自分でも具体的に説明付けられるわけではないが、アリアの挙動を無意識に観察してしまう。
相変わらず丸く純粋な瞳を真っ直ぐに見返すことはできないが、アリアがいることで不快感に見舞われることはなかった。
……それどころか、逆なのである。
「公爵様、こちらをご覧ください」
妙に弾んだジェイドの声。
彼が見せてきたのは、先ほどまでアリアが描いていたと思われる画用紙だった。
「……」
「なんと、お可愛らしい」
見入っていたクリストファーの横で、マーティンが目尻の皺をより深くする。
ジェイドから受け取ったアリアの絵は、はっきり見分けがつく似顔絵が描かれていた。
(……これは、俺なのか)
灰と白のクレヨンを行使して塗られた銀色の髪。涼やかで切れ長の青い目は、よく特徴を捉えている。
一つ似ていないとすれば、この絵のクリストファーの口元は笑っていた。
決してアリアには向けることのない表情を、まるで実際に見せて欲しいとでも言われているかのように笑わせている。
思えば以前もジェイドを通してアリアから小さな手紙が届いたことがあった。
覚えたての拙い文字で、そこにも絵が描いてあったが、その時のクリストファーは一切興味を示さずどこかにやってしまった。
しかし不思議なことに、今は自然と目を向けてしまう。
(で、こっちは)
自分と思われる絵のすぐ横には、二頭身の生き物が中途半端に転がっていた。
おそらくコレを描いている途中で寝落ちしたのだろう。
二つのある丸い目のうち、一つは色が塗られず肌の色のままだった。
それでも、片方の目が紫色に染まっていることで、この珍妙な生き物の正体がわかる。
「…………ふ」
クリストファーとアリア。
この絵は、二人を描いた絵なのだろう。
気合いが込められたクリストファーの絵と、取って付けたような二頭身アリア。
二つの絵の出来栄えの落差。その珍妙な物体に言い知れぬ可愛げを感じ、クリストファーの口元が思わずほころんだ。