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 十分後。
 時間ちょうどに執事長マーティンが執務室にやって来た。

「公爵様……おや、これは失礼致しました」

 入室して早々にマーティンは声音をそっと落とす。
 どうかしたのかとクリストファーが彼の視線の先を確認し、すぐに理解した。

「……アリアお嬢様、お絵描きの途中で眠ってしまったようでして」

 たったの十分クリストファーが目を離した隙に、アリアは寝入ってしまったようだ。
 つい先程まで元気に菓子を頬張っていたというのに、その変わり身の早さがクリストファーには全く別の生き物のように思えた。

 すやすやと小さな寝息を立てる様は、さながら小動物にも見える。

「……よく意識を手放せるものだな」

 クリストファーは眉根をわずかに動かしながら言った。

「公爵様。お嬢様は幼いですから、ご容赦くださいませ」

 すかさずマーティンはアリアを擁護する形で発言する。
 顔では全く感情が読み取れないため、呆れているのか、それとも主の部屋にいて勝手に眠ったことを咎めた言葉なのかもどうかも分かりにくい。

「……。そこに寝かせておけ」

 クリストファーから出た意外な言葉に、ジェイドとマーティンは一瞬だけ目を合わせる。

 最近アリアに関心を持ち始めたのは周知のことだが、眠ってしまったアリアにそう指示を出すとは思っていなかったのである。

「かしこまりました、直ちに」

 ジェイドは慎重にアリアの手からクレヨンを抜き取り、靴を脱がせるとソファに横たえさせた。

 その間にクリストファーは、今しがた処理を終わらせた文書をマーティンに手渡した。