……だいたい菓子を食べ終わったら別館に帰るという流れなんだけど。
「公爵様、ご歓談中のところ申し訳ございません」
この日は、急遽決裁を要する文書が早馬で送られてきた。
執務室に入ってきた執事長は申し訳なさそうに私を見てきたけれど、気にしなくていいよと表情で伝える。
「10分だ」
執事長に伝えたクリストファーは、分厚い文書を受け取ると、ソファから立ち上がって執務机に戻っていく。
(ええっ、あんな束を10分で!?)
まだ菓子は食べ終わっていない。
出ていけとも言われないので、両足をぷらぷらとさせながらクリストファーの姿を眺めていると――
「アリアお嬢様。こちらで遊んでみてはいかがですか?」
私がじっと待てるか疑っているのか、ジェイドは画用紙とクレヨンを渡してくる。
「ジェイドも一緒におえかきしよ」
「僕もですか?」
「うん、描き終わったらみせてね」
一人でやるのも何なので、ジェイドも誘う。
クリストファーの文書決裁が終わるまでの間、私は手すさびに絵を描いて過ごした。