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　夢をみた。
　どうしてこれが夢だと気づけたのかはわからないけれど、その光景を前にすぐに夢だと悟った。

『お父様、どうして……私はただ……』

　その少女は、悲痛な叫びのような声で訴えていた。
　両目を強く押さえつける手からは血が滴り、床に大きな血溜まりを作っている。

　痛みにもがく少女のそばには、無機質な顔で佇む男の姿があった。

『…………』

　そんな男の片手も、べったりと血で汚れている。
　少女の血で、汚れている。

　握った手の中には、たった今少女から奪い取ったであろう＂それ＂があった。


『リデルもこの屋敷に連れて来ました。お父様が欲したから。リデルの髪が必要だと教えてくれたから。だから私は……私は、少しでもお父様のお役に立ちましたか』
『……』

　奪われた視界の中で、少女はその面影を探しているようだった。
　それでも男の表情はびくともしない。

　もう、手遅れなのだ。
　彼の精神は遠に呑み込まれてしまった。


『……これから、役に立つはずだ』

　そう言って、血まみれの冷気を帯びた手から見えたのは、見覚えのある紫色だった。