「お父様、今日もお稽古するんでしょ? アリアも――」
「……」
行きたいな、とは最後まで言わせてもらえず、クリストファーは部下を引き連れて行ってしまった。
「……行っちゃった」
換算すると約二分という時間。カップラーメンよりも短くて切ない。
だけど、今日が一番クリストファーの反応を見れた。無反応で素通りされるよりはいい。
それに今の私にできることは、これぐらいしかないのだ。
本当にこんなことで大丈夫なのかなと思わないでもないけれど、ほかに方法もない。
だからサルヴァドールが言った通り、しつこいくらいに愛嬌を振りまかないと。
「おい、アリア」
「なに?」
「そろそろ部屋に戻らないと、あのうるさいメイドが来るぞ」
サルヴァドールの言葉とほぼ同時だった。
突き当たりの廊下から、慌てた足音が聞こえてきたのは。
「アリアお嬢様! またこんな場所に薄着でいるだなんてっ!!」
凄まじい形相をしたシェリーの姿を視界に捉える。
私は「ごめんなさい」と謝って、冷えた体をしゅんと縮こませた。