(ひ、人だった)

 どうやら私は、人の上に乗っていたらしい。
 扉が開いた反動で、勢いよく前のめりになってしまったからだろう。
 床には一つのランプが転がっていて、そのおかげでぼんやりと状況が掴めてきた。

「……。ケガはない?」

 目の前にいたのは、薄い亜麻色の髪の美少年だった。
 困惑した赤い瞳が私をじっと見つめていて、それでも無事かどうか確認してくれている。

「大丈夫です」

 静かで洗礼された彼の雰囲気に圧倒され、なんとなく敬語になってしまう。
 美少年は控えめに微笑みを浮かべると、私の肩に手を添えてゆっくり体を起こしてくれた。

「ケガがなくてよかった。驚いた、突然倒れ込んできたから」
「ごめんなさい、人がいると思わなくて」
「ううん、いいんだ。それより、こんな夜にどうしたの?」

 尋ねられて、私はふと我に返る。
 そういえばこの人は誰だろう。別館で一度も見たことがない顔だし、そもそも子供がいるなんて初耳だ。
 ここで働いている使用人の子供とかかな。それにしては身なりがいいような。

「どうかした?」

 美少年は首を傾げている。

「わたしは本を探しにきただけだよ。あなたは、どうしてここにいるの?」
「俺も本が読みたくて。この時間なら、絶対に人が来ないと思ったから」
「そうなんだ。じゃあ、アリアと一緒だね」


 すると、美少年は目を見張って私をまじまじと見つめた。
 手に持っていたランプを掲げて、食い入るように顔を確かめられる。