「どうかしたのか。これが見たかったんだろう」
クリストファーは腕を組みながらルナキュラスの花畑を一瞥した。
こんなにも心が震える美景でもクリストファーの様子はいつもと変わらない。
そもそも初めからそこまで関心がなかったのか、その様子は「ただ視界に入るから見ている」といった感じである。
「はい、お父様」
私はこっそり摘んでいたルナキュラスの花をクリストファーに差し出した。
「ルナキュラスだよ」
「それは知ってる」
ルナキュラスは開花から数日が経つと、茎から花頭が離れて風に乗ってどこかへ飛んでいく。そしてまた土に降りて根を張り、次の冬に新しい花を咲かせる。
私が手にしたルナキュラスの花も、頭花がすんなりと取れたのでそろそろ開花の終わりだったのだろう。
それをお礼と一緒に渡そうとしただけなのに、クリストファーはなぜか動きを止めてしまった。
「…………。なぜ、俺に」
その言葉には、少しの戸惑いが含まれている気がした。