気持ちを落ち着かせようとスマホを手に取ったとき「早坂」と名前を呼ばれた。


「わっ!? あ、ありがとう桐谷くん」
「いいよ。はい、これが早坂のな」


そう言ってトレーごと私の前に置いてくれる。
ふわりとお肉の美味しそうなにおいがした。


「あ、いくらだった?」
「さあ?」
「えっ」


まさかの返答に驚く。
固まった私を見て桐谷くんは「ははっ」と愉快に笑った。


「冗談だよ、奢る」
「えっ、悪いよそんなの! レシートは? もらった?」
「いーからいーから。コースターのお礼ってことで」


その言葉を聞いて、桐谷くんにコースターをプレゼントしたとき『じゃあ少なくとも3000円くらいの価値か』なんて言っていたことを思い出す。

そんな価値なんて全くないのに彼が気に留めてくれているのが嬉しくも苦しい。


「なあ、そんな顔されたら悲しいんだけど?」


優しさと、ほんの少し心配が滲んだ顔で見られて、胸がぎゅっと締め付けられる。


「……ありがとう、桐谷くん」

「どーいたしまして。それにしても、クラスで天使だ女神だ言われてちやほやされてる早坂サンがまさか奢られ慣れていないとは」


ニヤニヤと笑われて顔が赤くなるのがわかった。


「そ、それはっ……みんなに奢られたくてキャラ作ってるわけじゃないし……!」

「ははっ、顔真っ赤じゃん」


笑いながら指摘されて余計に顔に熱が集まる。
もう何も言い返せない。