桐谷くんにはたしか、付き合っていた人――つまり元カノが何人かいたはず。
去年だったか、廊下で仲良く話している姿を見たことがあったけれど、その女の子たちはどうやって彼をドキドキさせていたんだろう。

そしてどうやって彼に好きになってもらったんだろうか。


「なあ、乗んの緊張しねえ?」

「初めて乗るしちょっと緊張してる……だけど楽しみっていう気持ちの方が勝つかな!」


頭のすみっこで考え事をしながらも、桐谷くんとはなんだかんだ話が続いていく。
そうこうしているうちに私たちが乗る順番がやってきた。

何名様ですか、というスタッフさんの質問にふたりですと答えて、案内の通りに進んでいく。

目の前にはもうジェットコースターが見える。
ドキドキわくわくしながらポケットに何も入っていないか確認し、マシンに乗りこんだ。


「わーっ、どうしよう! 楽しみすぎてニヤついちゃう」

「はは、いいじゃん。ストレス発散するために思いっきり叫ぼうぜ」

「桐谷くんがわー!って叫んでるのあんまり想像できないかも」

「はあ? いいぜ、これから見せてやるよ」


そうやって話している間にスタッフさんの安全確認が終わり、マシンが動き出した。

ここ最近でいちばん心臓が高鳴っている気がする。
なにせ、大好きなジェットコースターに乗れるのは本当に久しぶりなのだ。

それもひとりじゃない。
隣に一緒に楽しんでくれる人がいる。

カタンカタンと音をたてて、高く高く上っていく。
それに比例してどんどんテンションも上がっていく。


「わあ……!」


落ちる直前に見えた景色はとてもきれいで、太陽の光がきらめいていた。
そんな風景に見惚れているとマシンが下へ傾き、そのまま急激なスピードで落ちていく。


「きゃーっ!」


楽しくて自然と出た叫び声は、ほかの人たちの声と重なって消えていった。