「……本当は、何度か七瀬ちゃんたちに言おうとしたんだけど、言えなくて」


中学生のときの人たちと違って、彼女たちは普通に受け入れてくれるだろうと思う。
今まで一緒に過ごしてきたからわかる。


「……だけど私、ちょっと過去に囚われすぎだよね」


他の誰かからしたら、どうして悩むのってくらい軽いことかもしれない。
だけど私には重くて、そう思われるのも余計に重くて。

ずっと逃げていたけれどそれはもうやめないと。


「ま、もうちょっと軽く考えていいといいと思うぜ。天使の羽でもつけてさ」

「ふふっ、それってちょっとバカにしてるよね」

「そんなことねーけど? 早坂は天使だの女神だの言われてるじゃん」

「私は天使でも女神でもありません」


くすくすっと笑いがこぼれる。
どうしてだろう。

桐谷くんが目の前で『割と普通だ』って言って笑うから腹が立っていたはずなのに、逆にそのおかげでスッキリしている。

重く考えている自分がバカらしくなったからだろうか。
だからと言って悩みが急に軽くなんてならないけれど、心のもやがまた少し小さくなった気がする。