「あ、そうだそうだ。これ、結衣にプレゼント」


嬉しそうに差し出されたのは手芸道具だった。
毛糸も一緒に買ってくれたのか、いくつか色が並んでいる。


「食材買いに行ったときに寄ったんだけどね、結衣好きそうだなあって思って買っちゃった」


ふふっと笑う母は少し自慢げで、嬉しそうだった。
相手がどんな反応を求めているかなんて、きっと私じゃなくともわかる。


「わー、ありがとう! 今はこんなのもあるんだね」
「ね、すごいよね。ほかにもあったんだけど――」


母が嬉しそうに笑うたび、私の心がズキズキと痛む。

桐谷くんに『本当はイチゴミルク好きじゃない』と言ったあの場面が頭をよぎる。
そして『自分を偽っているのではなくて、言っていないだけじゃないか』と言われた場面も。


手芸なんて本当は好きじゃない。

だけど母が幸せそうに買ってきてくれるから、小さい頃はその気持ちが嬉しくて喜んでいた。

それが何度も続いて、母は私が手芸が好きなのだと疑わなかっただろう。
そりゃそうだろうと自分でも思う。


だけど本当のことを言う機会を逃して、勇気を出すこともできなくて。
好きじゃないと言うことは簡単だ。

だけどこの状況は、桐谷くんのときと同じようで同じじゃない。
少なくとも私はそう思うから、なにも言うことができなかった。