「えっと……」


私は半ば諦めて口を開いた。


「ほらその……桐谷くんって人気者だから……」
「はあ?」


当事者の彼は意味がわからないという顔をした。

うう、どうしてこういうところはわかってくれないの。
なんて桐谷くんに責任転嫁してしまう。


「人気者の人に気安く話しかける勇気はないの!」
「なんだそれ。また周りの目、気にしてんのか」


桐谷くんの表情は、呆れているようにも怒っているようにも、同情しているようにも見える。

私の心が揺れているから、彼の気持ちをそう決めつけてしまっているのか。
それとも彼自身が本当にそう思っているのか、全然わからない。

どう返事するのが無難だろう……
かと言って、桐谷くんに嘘をついてまた見破られるのも怖い。

結局、自分の心を偽らずに、うんと頷いた。


「……べつに誰も気にしねーよ」

「するよっ。私たち仲いい訳でもないのに急に教室で話しだしたら、少なくとも瑠々ちゃんは絶対に、そんな仲よかったっけって聞いてくるよ」


安易に想像できる。

桐谷くんの言う通り、まったく気にしない人だっているだろう。
だけど私の周りは――特に桐谷くん相手になると、気になるって人が絶対にいる。


自分が周りの目を気にしすぎているのはわかってる。
でもこの話は、考えすぎなんじゃなくて事実だ。
女の子というのは大抵、こういうことに敏感だから。


そう頭の中でぐるぐると思考していると、桐谷くんがなにも言ってこないことにふと気付く。
ちらりと横を見ると彼は不機嫌そうな顔をしていた。


……これは怒ってる。
さっきと違って確信があった。