「それに……やっぱり怖くて」


いちばんの理由はそれだった。
ネガティブな考えしか浮かばなくて、そしてそうなってしまう事実が怖くて動けない。

気持ちは膨らむばかりなのに解決できないままで、ずっと苦しい。


「……早坂はさ、誰にでも優しいよな」
「え?」


優しい。
何度も何度も言われた言葉。

だけど桐谷くんがそう言ってくれるなんて思っていなかったから驚く。


「誰にでも優しい人は誰にも優しくないって言うけどさ、俺はそうは思わない」


私のほうを向いた桐谷くんと目が合ってドキリとする。


「人に優しくするのって、少なくとも相手のことを想ってないとできないことじゃん。その目的が人に嫌われたくないからだったり、いいように見られたいからだったりしてもさ」


いつもより暗い世界の中、桐谷くんの表情はやわらかだった。


「優しくするって人として当たり前だとか言われるし、よく聞く言葉だし、簡単に感じるけどそうじゃない」

「……かんたんじゃ、ない?」

「そ、さっき早坂が言ってたことと被るけど。つまり優しいってすごいことだよ」


桐谷くんはそう言うと、抱いていたしいちゃんをそっと地面に下ろす。
するとしいちゃんはてくてくと歩いていき、ガレージの奥にあるベッドに寝転んだ。