「私、七瀬ちゃんたちのこと好きなの」
「は?」


桐谷くんは意味が分からないと言いたげに眉をひそめた。
そういう反応をされるんじゃないかと思っていたから思わず笑ってしまう。


「最初は……入学してすぐのときは、正直好きじゃなかったの。常識ないなって思うときもよくあったし、私と違ってキラキラしてて嫉妬もしちゃったし、ちょっと怖いし……」


私たちが通う高校は、教育困難校……いわゆる底辺校にあたる。
偏差値の低さはここらへんじゃ一二を争うし、実際みんなの学力も低い。
授業は授業にならないこともよくあるし、留年や中退をする人もいる。

つまり何が言いたいかっていうと、言葉は悪いが馬鹿が多いのだ。
そんな常識も知らないのかと驚くこともあるし、精神年齢が幼いと感じることもよくある。


だから好きじゃなかった。
一年生のころの私は正直、みんなのことを見下していたんだと思う。


「だけどね、みんなと過ごしてると、私が持ってないものをたくさん持ってる人たちだって気づいたの」


七瀬ちゃんたちは、学校では学べないことをたくさん経験している人たちだった。

たとえばアルバイト。
私たちの高校ではバイトが認められているから、ほとんどの人が働いている。

常識がないと感じていたけど、社会ではやっていける程度に身についているし、それを補うほどのコミュニケーション能力や愛嬌がある人ばかりだ。

そしてなにより、学校では学べないことを働いて経験して、みんな成長していく。