「……だからあんなに愛嬌よく振舞ってんの?」
「……うん」


桐谷くんの言葉に小さく頷くと、沈黙が流れた。
彼が今いったいどんなことを考えているのかまるでわからない。

すごく怖かった。
こんなことを誰かに話すのは初めてだったから。


「じゃあ、ずっと嘘ついてるってこと?」

「……うん。ほんとは私、あんなに優しくないよ。口だって悪いときあるよ、イライラすることだってあるよ」


早坂結衣はどんな人ですか?
そう聞いたらほとんどの人がこう答える。
女神みたいに優しい、暴言も愚痴も吐かない、明るくてよく笑う人だって。


出てくるのはいつも誉め言葉ばかりで、それはやっぱり嬉しかった。
心をすり減らしてでも理想の自分を演じられてるって証拠だったから。


誰にでも優しく見えるように、よく笑って見えるように、暴言も愚痴も言わない女性に見えるように。
ずっとずっと印象を操作してきた、努力してきた。
人から嫌われないために。


だからそれでよかったはずだった。
だけど今はこんなに苦しい。