でも結局見つからなくて。


「き、緊張するから……」


なんて、本音とあまり変わらない言葉しか出てこなかった。

どんな反応をされるだろうと気になって、ちらりと様子を見る。
桐谷くんは驚いたかのように固まると、すぐに肩を震わせて吹き出した。


「ははっ、もー、なんなんだよそれ」
「わ、笑わないでよっ」


こちらは真剣だというのに。
恥ずかしさとちょっとした怒りがわいてきて、桐谷くんを睨む。
すると「ごめんごめん」と軽い調子で謝られた。


「でもさ、それならちょうどいいじゃん。いっぱい練習しとけば本番には慣れるんじゃない?」
「ええ、そうかな……」


私が緊張するいちばんの理由は、彼のことが好きなことにある。
だから練習を重ねたって慣れるどころかドキドキが増しそうだけれど……

でもそんなことはさすがに言えず口をつぐむ。
彼はそれを肯定ととったのか、私の手を彼の腰に持っていく。
ダンスの姿勢だ。


「じゃ、最初からな」
「う、うん」


夜に、ガレージで、好きな人とふたりきりで踊る。
そこにはもちろんしーちゃんもいて、厳密にはふたりではなく、ふたりと一匹だけれど。

でもそんなシチュエーションは私にはあまりにも毒で、薬でもあって。

ふわりと風が吹いて桐谷くんを見上げると、優しい表情で微笑まれる。
言葉にできない気持ちをまるでかわりに吐き出してくれるかのように、猫が小さく鳴いた。