答えたくなくて言葉が詰まる。
桐谷くんは悲しそうな目で私を見た。


「……俺が言いふらすと思ったから、あのときあんな泣きそうな顔したのかよ」

「え、えっと……」


その通りだけど、理由はそれだけじゃない。
でもそれを説明するのはやっぱり怖くて、彼から目をそらした。


「だ、誰だって話そうと思ってない相手に愚痴を聞かれるのは嫌じゃないかな?」

「それはそうだろうな。でもあのときのお前は……この世の終わりみたいな顔してた」


頭の中に昨日の出来事が浮かぶ。
まさか彼にはそんな風に見えていたなんて驚いた。


「あはは、心配してくれたの? ありがと――」


笑顔を作ってお礼を伝えようとしたけれど、桐谷くんに腕を掴まれて言葉が途切れる。


「お前、誤魔化すなよ。俺は真剣に話してんだけど」

「っ……」


焦ってこの場を乗り切られる言葉を探すけどひとつも出てこない。
いつもは無意識でも嘘がぽんぽん吐けてしまうのに何も話せない。
こんな風に言われたことないから、誤魔化すなってこうして迫られたことなんてなかったから。


どうしよう、どうしたらいいの。
心臓が耳の横にあるんじゃないかって思うくらい、ドキドキした音が響く。
もうろくに考えることもできなくて、感情のままに口を開いた。