「俺たちに断る権利はあるよな?」


桐谷くんの声で記憶の海から意識が戻る。
黒板の前に立っていたあっちゃんは困ったように笑った。


「まあそりゃね! でもできればやってほしいな~!」


にこっとアピールされて焦る。
推薦してもらえるのは嬉しいけれど正直絶対にやりたくない。

嫌な記憶がよみがえってくるし、またやらかしてしまうのではないかという不安もある。
だけどあっちゃんやクラスメイトの空気的にはとても断りにくい状況だ。


どうしよう……


困って視線を動かすと桐谷くんと目が合った。
彼はやりたいのかやりたくないのかどっちなんだろう。

さっきのセリフ的には断るつもりなのかな。
そんなふうにぐるぐると考えていると桐谷くんが口を開いた。


「早坂はどうしたい?」
「えっ、ええと……」


私の答えを聞くために教室が静かになる。
それがまた心臓を焦らせる要因のひとつになってしまう。


そりゃやりたくない……けど。
この空気、この大人数の前ですぱっと断る勇気も私にはない。


ああもう、どうしたらいいんだろう……
ここは嫌でも引き受けるべきか、きっぱりと断るべきか――


「ねえ。瑠々、魔女役やりたい」


突然の声にみんなが視線を向ける。
私だったらそれだけで萎縮してしまうのに、瑠々ちゃんは全く気にする様子はない。