『もしもうまくいかなかったら、どうする?』
『そのときはおれがたすけてあげる』


桐谷くんのその言葉に甘えてしまっていたのか、私は舞台の上でセリフを全部忘れてしまった。

あんなに練習していたのに何も言葉が出てこない。
沈黙の時間が長くなれば長くなるほど焦って、余計に頭が真っ白になって。


きっと桐谷くんと同じ場面だったら彼は約束通りに助けてくれていたと思う。
だけど悲しいことに王子様は舞台袖で、登場するシーンではなかった。


結局担任の先生が助けてくれたけれど、それまでの間の、保護者たちのくすくすと笑う声が頭から離れない。

今思えば、あれは小さな子どもが頑張っているという笑いだったのだろうけれど、あのときの私には恥ずかしくて怖くてたまらなかった。

だから、自分の失敗だったのに彼に八つ当たりしてしまったのだ。


『どうしてたすけてくれなかったの!』と。


そのときの桐谷くんの表情は、怒っているのか悲しんでいるのか、心配してくれているのかよくわからない顔だった。


『……ごめん、やくそく守れなくて』


だけど彼が口にしたのはこれだけ。
私たちはそれから話さなくなった。



だから同じ中学に通っていても、私の人間関係なんて知る機会もなかっただろう。
なぜなら私も桐谷くんのことなんて何も知らなかったから。