「ううん、付き合ってないよ」

「ほんと?」

「ほんとだっつの、俺もさっき付き合ってねえって言っただろ」

「瑠々はゆいぴーの口からちゃんと聞きたかったの!」


威嚇するような大きな声にドキリとする。
ふたりはなんだか険悪な雰囲気だ。

瑠々ちゃんはイケメンの前だと機嫌がいいのに珍しい。
あっけにとられていると、瑠々ちゃんはぽつりとこぼした。


「だって、なーちゃんからゆいぴーが倒れたって聞いてびっくりして、そしたら桐谷くんの家にいるから大丈夫とか言われて……ふたりって全然なかよくないのに大丈夫じゃなくない? って心配になって。だってさ、ゆいぴー瑠々たちの前でも甘えられないのに、なかよくない人の前でなんかしんどくても絶対甘えられないでしょ?」

「瑠々ちゃん……」


まさか彼女がそこまで考えてくれているとは思わなかった。
気分屋で言葉がキツイこともたくさんあるけれど、彼女は愛にあふれている人なのだと改めて気づかされる。


「でもさでもさ、ゆいぴー秘密主義だし、もしかして瑠々が知らないだけで付き合ってたりするのかなって、そしたらゆいぴーも甘えられるでしょ。だけどそしたら――」


そこで彼女の言葉は途切れる。
だけど私にはそのあとの言葉がわかってしまった。

いや、きっと桐谷くん以外のみんな全員が気づいているだろう。
だって昨日瑠々ちゃんから、桐谷くんのことを好きになったと聞いたばかりだから。

そのときの私は何も言えなかった。

『実は私も最近桐谷くんのこと気になってるんだよね』

なんて、瑠々ちゃんを傷つける勇気も、彼との関係の全部を話す勇気もなかったから。