「あ、そうだ。ゼリー食う?」
「うん、食べる。ありがとう」


渡されたのはオレンジ味のゼリー。
その色には見覚えがあった。


「これ、桐谷くんが好きなやつ?」

「そうだけど、なんで?」

「遊園地行ったときオレンジジュース飲んでたから好きなのかなって」


思ったことをそのまま言っただけなのに、桐谷くんはにやにやした顔で笑う。


「へー、早坂さんはそんなとこまで見てるんだ」

「えっ!? 友だちの好きなものを知りたいって普通、だよっ」


だよね? と不安になって心の中で自問自答する。
気になる桐谷くんの反応は、一瞬の間が空いたあと口元を綻ばせた。


「ほら、病人はゼリー食ってそろそろ寝ろ」

「えっ、でも」

「べつになんもしねえよ」

「ち、違うよっ、心配してるのはそんなんじゃなくて――」

「はいはい、俺がいいって言ってんだからいいの。お前はもっと甘えることを覚えろ」


少し強引だけれど、それは彼の優しさでもあって。
私は最近ずっと桐谷くんに助けられ続けている。


「……ありがとう」
「ん。夕方になったら家まで送るから」


さすがにそこまでしてもらうのは申し訳ない。
だけどそう伝えたって彼はきっと「いいから」と言うだろう。

今度、桐谷くんにたくさんお礼しよう。
そう心に決めて今日は甘えさせてもらうことにした。

ゼリーの容器を開けて、スプーンですくう。
もぐもぐと食べている間も桐谷くんは動く気配がなく、ずっと私を見てくる。