「……ソイツと付き合うの?」


ソイツというのが誰を指しているのかはわざわざ聞かなくてもわかった。
ううんと首を振る。


「……なんで?」
「えっ、それは……」


まさか理由を聞かれるとは思っていなかった。
少し口ごもってしまったけれど素直に言おうと口を開く。


「私、バイト先でも猫被ってるって言ったでしょ? だから好きになってもらっても本当の私のことを好きになってくれてるわけじゃないと思うから、私のことを知ったら好きじゃなくなるんじゃないかなって怖くて。それにその人のこと、恋愛対象として好きなわけじゃなかったから」


ずっと同じ体勢でいたからか体が少し痛くて座りなおす。
するとそのときに地面に手をついたからか手のひらに細かい砂がついてしまった。
払い落そうとしたとき、すぐ近くから手が伸びてきて代わりに砂をきれいに落としてくれる。


「ありが――」
「それってさ、俺みたいなやつだったらいいってこと?」
「え?」
「早坂の表の部分も隠してる部分も全部含めて早坂のこと好きなヤツだったら付き合うの」
「えっ、えっと……」


反射的に逃げたくなって手を引く。
だけど桐谷くんに掴まれているままでそれは叶わなかった。

彼の言葉も、瞳も、手も熱い。
なにがなんだかわけがわからないのに、自分の心臓がドキドキしていることはわかる。
この空間から逃げ出したくてたまらない。

でも桐谷くんの質問に答えないと逃がしてもらえないと悟って諦めた。


「……う、うん。ほんとにそんな人がいた、ら」
「……ふーん」