「あの、私ね」


行動を起こそうとするたびに湧いてくる不安を払いのけて桐谷くんを見る。


「誰かと話してても、どうしても言葉の裏を読んじゃおうとするの。この人はこう言ってくれてるけどほんとは嘘なんじゃないか、とか」


隣の彼は静かに聞いてくれている。
私は伝えたい一心で言葉の続きを話した。


「だけどね、桐谷くんは違う。桐谷くんの言葉はそのまま受け止められるの。いつもまっすぐな言葉をくれるから、信じられる。キツイ物言いなんじゃなくて、嘘のないまっすぐな言葉なんだと思う」


……言えた、自分の気持ちをちゃんと伝えられた。
弱い自分にまたひとつ勝てたことが嬉しくなるけれど、目の前の彼の反応がやっぱり気になってしまう。

ちらりと視線を向けると当人は驚いたように目を見開いていて、それから穏やかな表情でおかしそうに笑った。


「ははっ、早坂ってほんとすげーわ」


そう言うと笑顔が少しづつ消える。
そして笑いをこらえているのか痛いのをこらえているのかわからない顔で私を見た。


「……そんでズルいよな」
「え……?」


それはいったいどういう意味なのだろう。
今の言葉が良い意味だったのか悪い意味だったのかさえわからなかった。

だけど答えを尋ねることができない。
心の奥の方がモヤモヤするけれど、それ以上に桐谷くんの表情に胸が締め付けられる。

ドキドキして苦しい。
でもそれを目の前の彼には悟られたくなくて、だけど視線をそらすことはできなくて。

なんだかぼーっとしていると「なあ」と彼が話しかけてきてはっとする。