「どうしてそんなに怒ってるの」


驚いたのか、桐谷くんの目が少し見開く。
なんだか今日の彼は本音が見えない。
いつもまっすぐな言葉と態度で接してくれるのに。

いったいなにに怒っているんだろう。
桐谷くんの言葉を少し緊張しながら待つ。


「……ごめん」


だけど彼は謝るだけで黙ってしまった。


「……私は、助けてくれて感謝してるんだけどな」
「あれは……あれくらい、感謝されるもんでもなんでもねえよ」


桐谷くんはそう言って頭を掻いた。
お礼の言葉を受け取ってもらえないなんて、なんだかますます変だ。

ふと思い立ってかばんの中を探る。
すると目的の物はすぐに見つかった。


「桐谷くん、手だして」
「は? はい」


はてなを浮かべながらも素直にだしてくれた手に、コロンとお菓子を乗せる。


「……ラムネ?」
「うん。疲れたときは糖分とるとなんとかなるらしいから」


いつの日か彼が言ってくれた言葉をそのまま返す。
桐谷くんはラムネを口に放り込むと少し表情が和らいだ。

そして大きくため息をしてから少し切ない表情に変わる。


「……人気者に気安く話しかけられないって早坂が前に言ってたこと、ちょっと理解できたわ」

「え?」


思ってもみなかったことを言われて驚く。
文脈でそのまま考えると、それは私にということになる。
だけど彼の考えていることも意味もわからなくて頭がこんがらがってきた。