「桐谷くん、今日はありがとう」


ずっと伝えられていなかったお礼をやっと口に出す。
『べつに』となんでもない表情で返されるかな。
それとも『お前もなんか言い返せよ』と呆れられてしまうだろうか。

なんて考えて、あれ? と首をかしげる。


「ロングホームルームのこと、なんだけど……」


桐谷くんがなにも言わないから不安になって、言葉尻が小さくなっていく。

聞こえてない、わけない……よね?
なにか言ってはいけないことを言ってしまっただろうか。

本格的に不安になって彼の顔を覗き込む。
すると寂しそうな瞳と視線が合った。


「……前にさ、俺のこと“人気者”だとかなんとか言ってたけど」
「え? う、うん」
「早坂もじゃん。俺となにが違うの」


突然そう尋ねられて言葉に詰まった。
たしかに桐谷くんが人気者だと言ったことは覚えている。
私と彼のそれがどう違うかなんて、そんなの根本から違う。

そう言おうとしたけれど、絶対に言い返されると思って口にするのを躊躇した。


「それに元カレもいるらしいし?」
「え、それは――」
「なにが“特筆すべきことはない”だよ」


怒った口調で言われてムッとする。
どうしてそんな風に言われないといけないの。
元カレのことを話すか話さないかなんて私の自由のはずだ。

だけど――