「……ねえ、しいちゃんは好きな人いたりするの?」

「にゃあ」

「……そっか。私、がんばるね。自分磨きして、自分のこと好きになる」


しいちゃんの耳がぴるぴると動く。


「……そしたら、本当の私のことを好きになってくれる人もいるかな」


するりと手の中からしいちゃんがいなくなる。
どこに行くんだろうと目で追うと、ガレージの入り口で止まった。


「ん? どうした、迎えに来てくれたのか?」


そこにはいつの間にか桐谷くんが立っていた。
しいちゃんは話しかけている桐谷くんを無視して、その場で私に振り返る。


「にゃー」


それはまるで私に彼を紹介しているように見えた。
いや、そんなわけない。
一瞬浮かんだ考えをすぐに振り払う。
だけどまたすぐに同じ考えが浮かんできてしまう。


「早坂?」


視界に桐谷くんの手がうつってはっとした。
考え込んでいる間に近くに来ていたようでドキッとする。


「あ、えっと、桐谷くんもバイト帰り?」
「ん。早坂も?」
「うん、バイトお疲れ様」


早坂もな、と桐谷くんが言う。
そしていつものように私の隣に座った。