「あの……相田くんごめんね、さっきはありがとう」


彼が来てくれて本当に助かった。
心の底からお礼を伝えるけれど、相田くんはいつものように笑って流す。


「いやいや、オレなんもしてねーから。それにしてもモテるってのも大変だねー」

「ううん、これはそういうのじゃないから……」


あはは、と苦笑いして返す。
相田くんとはバイト先で出会った。
そこで話しているうちに同じ高校だったことがわかり、そのときはとても驚いたのが懐かしい。

彼は一言でいうとチャラい。
さっきのように遠慮なくなんでも言うし、女の子との距離は近いし。

だけど彼はなんだかつかみどころがない人だ。
いつも笑顔で飄々としているし、バイト先でもイライラしているところを見たことがない。

人の感情を読み取るのが得意な私は、こういった人が少し怖くて苦手だ。


「でもさ、ちゃんと断っててエライなって思ったよ」
「え?」


急に褒められて驚く。
相田くんはそんな私を見て目を細めた。


「マネージャーとアイツが話してるの聞こえちゃったんだけど、結衣ちゃんだったらいける、断らないでしょって笑ってたからさ?」

「え……」


アイツというのは告白してくれた先輩のことだろう。
マネージャーは何人かいるから個人名まではわからないけれど、でもそんなことはこの際どうでもいい。

まさかそんな風に言われていたなんて。
腹の底からふつふつと湧いてくるいろいろな感情を抑えて笑おうとしたそのとき。