「いぇーい! じゃあ結衣、お願いします!」
「うん、じゃあちょっと失礼して……」


私よりも背の高い彼女に手を伸ばして頭に触れる。
セットされた髪の毛が崩れないように気を付けながら撫でると、目の前の彼女は嬉しそうに笑った。


「ありがとうね、結衣!」
「ううん、これくらい全然だよ」


ヘンテコな儀式を終えて席に戻る。
やっと落ち着けると誰にもばれないように小さく息を吐いた。

しかしクラスの子たちはまだ熱が冷めないようで。


「結衣ってほんといい子!」
「もしも結衣ちゃんに彼氏とかできたらショックかも」
「あ、でも去年くらいにいなかった? ほら隣のクラスの」


そんな話が聞こえてきてドキリとする。
お願い、なんて心の中で祈っても届くわけがなくて。


「ね、結衣! そうだよね?」


悪意なんて全く感じられない目で見られてたじろぐ。
本当のことを知っている人の前で堂々と嘘をつく度胸はなくて、うんと頷いた。


「ほら!」
「え~、結衣ちゃん付き合ってた人いたんだあ……」


クラスの女の子が落ち込んでいるのを見て、なんだか罪悪感が募る。

それもそういうノリ?
それとも本当に悲しんでる?

こういうときにどう反応したらいいのかわからず、笑って誤魔化した。