「ちょっと! クラスの女神さまにそんなことさせられないから! 特に男子には!」

「べつに頭撫でてもらうくらいいいだろ!」

「俺も撫でてもらいてえ~!」


女子も男子もそういうノリのスイッチが入ってしまったのか、わいわいと楽しそうに話している。


……そう、これはノリだ。
私ではなく、女神のような早坂結衣をちやほやと褒めたたえて崇める、そういう『ノリ』。


いったいこれで何度目だろう。
人から愛されるのは嬉しいし、偽ってでもここまで愛される自分をすごいと思えるようになってきた。

だけどそこにいるのは私でもなければ、望んだ形でもない気がするのだ。


「あんたら騒ぎすぎ! はあ……結衣、嫌ならあたしから言うけど」


そう言って気を遣ってくれるのは七瀬ちゃんだ。
こういうときも人に注意ができて、それでいて弱虫な私にも優しくしてくれる。


「ありがとう……でも、大丈夫」


にこりと微笑みかけてから、クラスのみんなに向き合う。


「女の子だったらいいんだけど、男子には恥ずかしいから、よしよしっていうよりも、ぽんって感じでもいい、かな?」


内心緊張しながら問いかけると、クラスのみんなは「かわいい!」と言ってまた騒ぎ出した。


「ぽん、だって!」
「なにそれかわい~」


いいのかダメなのか不安になったけれど、結局はそれでいいという形に落ち着いた。

ちなみに私が勝ったときは頭を撫でてほしい人を指名していいということになったが、結局勝者は私でもなければ男子でもなく、運動神経がクラスで一番いい女の子だった。