明かされた、悲しい過去。

彩羽は、家族に捨てられ、日下さんと再会するまで施設で育ったらしい。

聞くだけで、胸が痛かった。

…この人も、辛いことがあって、
そうせざるをえなかったんだろう。

彩羽を苦しめて、傷つけたことを本気で
後悔している姿を見て、俺は何を
言うべきか悩んだ。

…だけど、伝えないといけないことがある。

『…彩羽は、きっと貴方のことを
 嫌いませんよ』

沢山、今まで辛かっただろう彩羽は、
日下さんが組長だということを知って
ショックを受けていたけど、
それでもなお、真っ直ぐに、
日下さんのことを信じていた。

毅然としていた。

『…だから、いつか、ちゃんと
 教えてあげてください』

それで、“今までよく頑張ったね”って
褒めてあげてほしい。

…だって、彩羽はきっと、今も兄の迎えを
待っているはずだから。

時々、彩羽が寂しそうなのはそういうことか。

ようやく、わかった。

俺の言葉に日下さんは目を見開いて、
「ありがとう」と切なげに笑った。

それから、車に戻った日下さん。

去っていく車を、哀しく見つめた。