来宮さんは、悔しげに口元を歪めた。

…白鷺さんは、氷室さんと来宮さんの
間にあったことを知ってるんだ。

一見、冷たく聞こえるけど、
白鷺さんは来宮さんを諭していた。

…まぁ、怒ってはいるみたいだし、
半分説教みたいだけど。

「彩羽に次手ぇ出したら地獄行きな?

 分かったら散れ、“霧雨”」

無表情かつ冷淡に吐き捨てると、
来宮さんを睨みつけた。

「…っ、俺は間違ってない!」

来宮さんは、苦しげに首を何度も横に
振ると、そう叫んで、走り去った。

『………』

間違ってない、と言ったときの彼の顔は
とても辛そうだった。

それは、まるで、自分の本音を押し殺して
いるように思えて…。

…本当は、氷室さんのこと。

「彩羽」

『はいっ』

来宮さんを目で追いかけていたら、
呼び戻された。

…そうだ、私、白鷺さんに抱きしめられた
ままじゃん!

見上げると、白鷺さんのいつも通りの
ポーカーフェイスがそこにあった。