「落ち着いた?」

『…最初から落ち着いてます』

「そう」

私は、何に動揺しているんだろう。

氷室さんだって、イケメンだし、モテてたり
彼女がいたって、何らおかしくはない。

天然たらしっぽいし、人寄せ上手そうだし。

言い訳みたいな言葉が、出てくる。

悶々としている私は、いつの間にか
人気のない場所に連れ込まれていることに
気が付かなかった。

来宮さんは、唐突に悪魔の囁きを繰り出す。

「ねぇ、…葵じゃなくて、俺にしとき
 なよ」

私の目の前に覆いかぶさるように立った
来宮さん。

後ろは壁。

夕日に照らされ、私の顔に来宮さんの
影が落ちてくる。

『…は?』

突然、何を言い出すんだ、この人は。

突拍子もないことを…と眉を顰めていたら、壁に押し付けられる。

『…っ!』

勢いが良すぎたせいで、うまく抵抗が
できず、両手までも押さえつけられて
しまった。