抱き着かれても、驚いた素振りのみで
嫌そうな顔をしていない氷室さん。

…もしかして、彼女?

「遊びに来ちゃった〜」

「びっくりした、…誰の差し金?」

「やだなぁ、私は葵に会いたくて来たの」

声はあまり聞こえないけど、氷室さんは
その子と近距離で話している。

…なんで?

その光景を見て、どうしてか胸にツキンと
鋭い痛みが走った。

…まさに、美男美女。

お似合いな二人とは、ああいうのを
言うんだろうな。

「かわいいでしょ、俺と葵の幼なじみの
 愛。

 葵のことが大好きなんだよ」

敢えて、幼なじみというワードを強調した
来宮さん。

…あんな、かわいい子だったら、
氷室さんだってイチコロに違いない。

そう思うと、胸がギュッと苦しくなった。

「ここだと向こうから見えちゃうし、
 邪魔しちゃ悪いから、行こうか」

呆然としている私の手を引いた、
来宮さんが、実はほくそ笑んでいたなんて
知る由もなくー…。