家に帰り、お昼のニュースが始まる頃にチラチラと空から雪が降り始めた。
 それがあっという間に雪の粒の量は増え、瞬く間に地面を白くした。
 ベランダの手すりに積もっていく雪を最初は楽しんで眺めていたが、そのうちに驚くスピードで外の世界が白に覆われていく。
「今日は早めに夕飯にしましょうか? 台風ではないので大丈夫だとは思うのですが、何かあった時のために」
 リビングで本を読んでいた僕に、テレビを見ていた琴子さんが提案する。
 テレビはずっとL字放送で、いま降っている雪は災害級になると注意していた。
 時計を見ると十五時半だ。
 スーパーの帰りにわくわくすると言っていた琴子さんの顔は、不安の色が浮かんでいる。
「そうだね。停電でもして夕飯が作れなかったら、食べるものは今日買った朝食用のパンしかない」
「じゃあ、早速準備始めちゃいます。国治さんが手伝ってくださると言うので、夕飯は手作り餃子です」
「まさか、自分であの形にするの?」
「そうです、包みます。ゆっくりで良いので、いまから準備しちゃいましょう。うちから持ってきたホットプレートで焼いたら、パーティーみたいできっと楽しいですよ」
 CMで観たことがある、ホットプレートで焼き、熱々の餃子を頬張りビールを煽るのを。
 あれが今日、ここで出来るのか。
「さっき買ってきたキャベツをひたすら細かく刻みます。自分が今まで食べてきた餃子を思い出して下さい、どんな大きさのキャベツが入ってましたか?」
 頭に餃子を思い浮かべる。
 かなり細かくなりそうだ。
「なんか、とにかく細かいく小さい……?」
「キャベツの他に、白ネギとニラもお願いしますね。私はこっちで、餃子の皮を作ります」
「……すごい、皮まで作れるのか」
「自分で作ると、モチモチで美味しいんです」
 よし!と掛け声を上げて腕まくりを始めた琴子さんは、僕にはとても頼もしく思えた。