お隣のヤクザに要注意Ⅰ

「その後目が覚めたら病院で、大家さんが俺を助けてくれた。退院して俺は施設に入れられて、小5のクラス替えで煌星と出会った」

話し終えた時にはもう夜の7時過ぎで。

俺の胸の中にいる叶恋はただ真剣に、静かに話を聞いていた。

「あの時……親父に何て言えば良かったんだろうな」

「羅虎……」

そっと俺の頬に手をそえてきた叶恋の瞳は優しくて。

「素直に思いを伝えてれば、まだいたのかな」

「……探そうよ、羅虎のお父さん」

「無理なんだよ。宛もないし探偵を雇うほどの金も権力も俺にはねぇもん」

でも……と呟く叶恋。

もういいんだ。

「もう、諦めてるからいいんだよ」

「……話してくれてありがとう羅虎」

いいんだ、もう一度愛されることができた。
願い通り、名前を呼んでこうしてそばにいてくれる人が現れただけで奇跡なんだ。

だから……。

「……羅虎」

ポタっ……とシーツが濡れた。

「っあれ、なんで俺……」

泣いてんだよ……。

ガバッと起き上がって目を擦るけど、止まりそうになくて。

「は、ははっ……なんで、いまさら」

「羅虎、もういいんだよ。もう、溜め込まなくても……自分の気持ちに抗わなくていいんだよ」

ぎゅっと優しく抱きしめてくれる叶恋。

っ……。

「私が抱きしめててあげる。だから、今まで我慢してた想い吐き出していいんだよ」

「っあー……くそ、お前の前で泣くとか、俺……情けなすぎんだろ……っ」

それでも、叶恋の言葉が俺の心に突き刺さって壁を壊していく。
ずっと、誰にも言わずに生きてきた。

知らんぷりして偽って。

こうして叶恋が壊してくれるのが心地よくて。

トンッと叶恋の肩に頭を乗せた。

もしもタイムスリップできるなら、あの日をやり直したい。

俺、俺は……。

「親父に……会いてぇんだ……っ」

「うん」

今どこにいるかわからないけど。

生きてるのか、死んでるのかもわかんねーけど。

それでも、会いたい。

諦めきってたはずなのに。

俺が落ち着くまで、叶恋は黙って抱きしめてくれていた。

女の温もりは嫌だったのに叶恋は不思議だ。

こんなにも温かくて優しくて心地よくて……ずっと甘えてしまいたいと思ってしまった。

❆叶恋side❆

あれから羅虎は前よりも私にくっつくようになった。

元々そういう人だけど、異常。

「なぁ叶恋ー今日組行くのやめね?」

「なに言ってんの!ちゃんと行くよ」

「えぇーやだ俺仕事なんか行きたくねーよ叶恋と家でイチャイチャしてたい」

ぎゅうっと私に抱きついて離れない羅虎。

まったく……。

あの日、羅虎とちゃんと向き合ったからか前よりも距離感が近くなった気がする。

「もー羅虎、組長にまた怒られるよ」

「うっ……わーったよ……」

羅虎がいつも着るパーカーを着させて、髪の毛をセットしてあげる。

ここ最近覚えたけど、羅虎のテンションが下がってる日は私がお世話するとモチベが上がるっぽい。

「羅虎の髪の毛サラサラだからノーセットが好き」

「とか言ってワックスつけてんじゃん」
「ノーセットの羅虎は私だけ知ってればいーの」

「ふーん?可愛いねお前」

髪の毛をセットしてネクタイを締めてあげた。

「っしゃ!気合い入った」

「じゃー行こ」

「ん!ありがと叶恋」

羅虎はご機嫌に車の鍵を持って私の鞄を持った。

もう、自分で持つのに。

家を出て羅虎の車に乗って、組に向かう。

「いいか?ちゃんとみんなの前では虎って呼べよ」

「うん。でもなんでみんなに秘密なの?」

「んー……なんとなく」

虎、かぁ。

でもなー。

「私、羅虎の名前は羅虎がいい」

「語彙力どこ行った?」

うっ……。

間違ってみんなの前で羅虎って呼ばないように気をつけないと。
組に到着して、いつも通りみんなと過ごす。

今日はシュウさんが仕事に言ってていないから、帰ってくるまでは羅虎と大人しくしてる。

「そういや叶恋ちゃん、学校の人たちと遊んだりとかしないね」

あぁ……そうかも。

「私学校でひとりだし」

「叶恋にはユイと俺がいればいいよなー」

「あんたはついでね」

「え、彼氏なのに……」

学校で友達なんかいないし。

馴れ合うつもりもない。

「でも花園の学校、もう少しで文化祭があるんだな」

組長、なぜそれを知って……。

組長の言葉に目を輝かせた羅虎と葉山さん。

「まじ!?んじゃ俺叶恋の学校行こ〜」

「はぁ!?来なくていいから!」

「そうだなぁ、花園の学校の奴らに組だってバレたら面倒だから虎と葉山だけだな行けるのは」
組長許可しないで!?

てか、文化祭は毎年サボってたから今年もサボる気満々なんだけど……。

「叶恋ーメイド着てよ」

「着ない」

「んじゃロリータ」

「着ない……」

「えーんじゃああとは……」

「着ないってば!変態!!」

((このふたり、これでまだヤってないとかピュアすぎる……))

ったくもう。

羅虎の頭の中は変態しかないのか。

「あーあ……俺も同い歳だったらよかったのに」

ぎゅうっと後ろから抱きついてきた羅虎。

突然どうしたんだ?

「虎?」

「絶対お前モテんじゃん。不安なんだけど」
「ぶっ、はは!虎が弱気なのおもろ!」

「葉山さん……」

笑う葉山さんを気にもせず抱きつき続ける羅虎。

めずらしい……みんなの前なのに。

「私……そんなモテないけど」

「嘘つけ!告白されてるとこ見たし」

「怖。ストーカーやめて」

「違ぇよアホ!……俺今から学生なろっかな」

え。

「アホはお前だ虎。花園の高校ライフ邪魔すんな」

「はいすみません」

羅虎はやっぱり組長に弱い。

そういえば……葉山とユイは上手くいってるのかな。

「ねぇ葉山さん」

「なにー?」

「ユイとは最近どうなの?」
そう聞いた瞬間、頬を緩めた葉山さん。

順調なのかな。

「ユイまじで可愛いよ〜。デートの時とかわがまま言いまくってくれて毎日電話してる」

「おっも……お前毎日電話とかやば」

「叶恋ちゃんにずっとくっついてるお前の方がやばいって」

ユイ……毎日電話するタイプだっけ?

恋をすると人はここまで盲目になるのね。

まぁ、ふたりが幸せそうならいいや。

──ガチャっ。

「ふぅ、組長ただいま帰りましたよ」

「シュウ、お疲れ」

シュウさん!

スーツのネクタイを緩めて帰ってきたシュウさん。

ちょっと疲れ気味かな。

最近シュウさんにも資料室で12年前の資料を探すの手伝ってもらっちゃってるから……。