村をぐるりと囲んでいる山からは、ミンミンと蝉時雨が夕方だというのに響いてくる。それを聞いていると、さらに暑くなっていくような気がした。

「ふぅ……」

藍が額に浮かんだ汗を拭っていると、「こんにちは」と声をかけられる。ゆっくりと振り返った藍は、目を見開いてしまった。

烏のような真っ黒な髪を三つ編みにし、薄い黄色の着物を着た同い年くらいの女の子がそこにはいた。恥ずかしそうに俯く姿がどこか可愛らしいのだが、見かけない顔だ。

「君、見かけない顔だね」

「あっ、えっと……最近この村に引っ越して来たから……」

か細く、しかし女の子らしい高い声に藍の頬が赤く染まる。胸がトクトクと高鳴り、苦しいほどだ。

(何だろう……この気持ち……)

女の子から目が離せなくなり、藍はジッと見つめてしまう。見れば見るほどその女の子が可愛く見え、誰よりも特別に感じた。

「お豆腐屋に行きたいんですけど、場所がわからなくて……」

「ああ。豆腐屋はこっちだよ」