眠ってからどれほどの時間が流れているのか、この部屋には時間がわかるものがない。もう夕方かもしれないと思うと、藍は焦ってしまう。弟たちを長い間放っておいてしまったため、泣いていないか心配だった。

「あなたを帰してあげる前に、一つお願い事があるんだけど聞いてくれる？」

ジッと見つめられたかと思うと、藍の体はミヒカ姫に引き寄せられ、柔らかな二本の腕に抱き締められる。

「お願い事とは何ですか？」

心拍数が上がって行くのを感じながら藍は訊ねる。ミヒカ姫は藍の真っ黒な髪を撫でながら、どこか寂しげに言った。

「私の屋敷に時々でいいから遊びに来てほしいの。ここは広くてたくさん使用人もいるけど、気軽に話せる友達はいないから……」

誰かが悲しんでいたり、寂しそうにしていると、藍は放っておくことができなくなる。それは、彼が兄弟の中で一番上の立場におり、毎日のように弟たちの涙を拭っているからだろう。人でなかったとしても、彼の中に断るという選択肢は最初から存在しない。