藍は東の方向を指差し、「案内するよ」と女の子に笑いかける。もう少し話してみたいと何故か思ったのだ。

「ありがとうございます」

女の子が初めて笑顔を見せてくれた。それはまるで、雪に埋もれていた地面から花が咲いたような美しいもので、藍は言葉を失ってしまう。

女の子の名前は咲(さき)と言い、医者の娘なのだと教えてくれた。咲の父は全国の医者のいない村などを回って診察をしており、家族である咲たちは父について来ているのだという。

「私も、将来お父さんみたいなお医者さんになるのが夢なの」

「へえ〜、素敵な夢だね!」

目を輝かせながら将来の夢を話す咲の横顔は、今まで見かけたどの女の子よりも美しく思えた。そして、しばらくして藍はこの気持ちが「恋」と呼ばれるものなのだと初めて知ったのである。

咲への想いを自覚してから、藍はミヒカ姫の元へ行くことが減って行った。その代わりに咲の家へ行くことが増え、勉強が得意な咲に算術などを教えて貰う。