真っ暗な部屋の中、微かに差し込む光に目を覚ます。ゆっくりと重たい瞼を開くと、目の前に端正な顔立ちがあって一気に覚醒した。
「む、むつ……!? えっ……?」
鉛のような体を起こし、辺りを見回す。
明かりは洗面台から漏れる白い光と、封じられた窓から漏れる光だけ。ベッドの奥は全面鏡張りになっていて、その奇抜な内装から、経験が少ない私にとっても、ここがラブホテルだと理解することができた。
そして――
「っ……!?」
肌に当たる、生々しい感触。私は一糸まとわぬ姿でベッドに寝かされていたのだ。
確か、私は昨日睦合くんとバーで飲んで……キス、されたような……? いや、された。
その後は彼が「場所を変えよう」と店を出て……近くのホテルに入って、そういう雰囲気になって……。
だ、ダメだ……。断片的に覚えているのに、思い出したくない。
一人ベッドの上で絶句していると、隣に寝ている彼が身を捩って寝返りを打つ。
おそるおそるもう一度横を見れば、やけに端正な顔のイケメンが、ぐっすりと寝息を立てている。
えっと……睦合くん、だよね……?
彼の顔はいつものように髪の毛で隠れていない。眼鏡をかけていなければ、マスクもしていない。
細い鼻筋に、形の良い唇。長く伸びたまつ毛は何だか色気があり、ずっと見ていられそうな寝顔だ。
あまりに見つめすぎたからか、彼がくぐもった声を出して目を覚ました。
「ん……おはようございます……」
彼は実は二重だった目をぱっちりと開けて私を見る。昨日の記憶からすれば睦合くんであることは間違いないのに、あまりの代り映えに、
「誰……?」
と、こぼしていた。
「は……?」
「え、えっと。ごめんなさい、私昨日少し? いやかなり? 酔っぱらってたみたいで……」
言いながら、ベッドから飛び起きると、そこら中に散らばった服をかき集め、急いで着替える。
「いや、ちょっと」
「ああ、今日も仕事だった! なので、一旦家に帰らないと!」
独り言のように喋りながら帰りの支度を整えていると、ベッドのそばにあったゴミ箱の中に、使い捨ての避妊具のゴミが見え、さっと血の気が引いた。
「さ、先に帰りますね! お、お金は置いておきます!」
慌てすぎて敬語になってしまう。けれどまともに彼の顔を見ることはできず、財布から適当に一万円札を取り出すと、近くのテーブルの上に置く。
ベッドから起き上がってきた彼の言葉も待たずに、最低限の身だしなみを整えると、ホテルから飛び出した。