「どうしよう、どれも美味しい……」
ほんの一、二杯飲んで帰るつもりが、気付けばもう三杯目。睦合くんがオリジナルカクテルが美味しいといろいろ勧めるから、つい飲み過ぎてしまった。
ここに来るまでに既に出来上がっていた私は、さらに良いが回り気分も高揚している状態。
睦合くんはというと、私に合わせてお酒を頼んでいるにもかかわらず、顔色一つ変わってない。しかも、マスクを外した顔をこんなに近くで見るのは初めてで、何だか見てはいけないような気がして視線を逸らしていた。
「というかごめんね。こんな時間まで付き合わせて。私のことは気にしなくていいからね?」
「僕が飲みたかっただけなんで」
「え?」
「足田さん、やけ酒してる感じでしたしちょっと気になって」
「っ……」
隠していたつもりなのに、年下の男の子に見破られるとは、またしても情けない。
図星で手元のグラスを飲み干すと、ぐらっと酔いが回ってくるのがわかった。
「何かあったんですか?」
「ううん、べつに。何も」
さすがに部下に愚痴るわけにもいかず、気持ちを落ち着かせようとチェイサーに口をつける。
睦合くんは少し考えたあとで、おもむろに口を開いた。
「部下の寿退社でダメージをくらった、か」
「っ……」
「赤沼さんあたりに、足田さんみたいにはなりたくないって言われた、か」
「ごほっ……」
「あ、図星ですか?」
チェイサーでむせそうになり、息を整える。
洞察力があるというか、生意気というか……睦合くんにここまで見透かされてしまうなんて。
「ど、どっちも当たり。でもいいの、私には仕事があるし。たまに感傷的になるくらい、誰だってあるでしょ」
開き直ってメニューをとれば、「飲み過ぎですよ」と嗜められる。
部下に注意されているのも何だか虚しくて、だけどこれ以上飲んでしまったら私の体がもたない気がする。諦めて、手持無沙汰になった手でもう一度チェイサーを含んだ。