二時間ほどで飲み会はお開きになり、みんなが繁華街の奥へ向かって歩き出す。
 今日は金曜日ということもあり、何人かは二次会に乗り気で、出欠がとられていた。

「足田さん行きますよね! 私今日は何だか飲みたい気分で」

 赤沼さんに誘われ、二つ返事で頷く。ちらりと睦合くんを見れば案の定「僕は帰ります」と一人駅の方向へ歩き出した。
 しかし、先ほどまで彼の隣をぴったりと占領していた野中さんが、彼の腕を掴んだ。

「睦合さんも行きましょうよ、二次会」
「いや僕は――」

 明らかに嫌がっている睦合くんを引き寄せて、彼女が耳元で何かを囁く。
 そしてそのまま二人、私たちの輪から離れるように、繁華街の奥へと歩き出した。

「あれ、あの二人抜けるんですか?」
「え……」

 赤沼さんも一部始終を見ていたらしく、どこか興奮したように私に話しかけてくる。

「睦合くんちょっと嫌がってそうですけど」

 強引に、野中さんに腕を引かれる睦合くんは、後ろ姿からも抵抗しているように見える。
 その無理やりな様子に、考えるよりも先に足が動いていた。

「えっ足田さん?」

 赤沼さんの声を背に、睦合くんのそばまで駆け寄ると彼の腕を掴む。
 瞬間、あまりに突発的な自分の行動に、途端に冷静になってきた。

「あ……」
「課長……? どうされたんですか?」

 彼の腕を掴んだまま、野中さんが気まずそうに私を覗き込む。

「ええと……二人も一緒に二次会どうかなって……」
「いえ、私たちは……」

 まるでこのまま二人で抜けるから邪魔しないで。そんな声が聞こえてきそうだ。
 いくら鈍いと言われる私でも、それくらいはわかる。
 だけど引き下がることはできなくて、彼を掴む腕に力を込めてしまった。
 ダメだ、私また酔っぱらって……まったく学習能力がない。
 自己嫌悪に陥りつつ、さすがに諦めて睦合くんの腕を離す。瞬間、その手を彼に絡めとられていた。

「……本当、中途半端なことするのやめてもらっていいですか?」
「え?」
「すみません、僕たち抜けるんで。お先に失礼します」
「ちょっ!?」

 そのまま手を引かれ、繁華街の奥へと進んでいく。
 後ろからみんなが戸惑う声が聞こえてきたけれど、振り返ることはできず、そのまま彼についていった。